作曲家中村洋子先生のブログ「音楽の大福帳」http://blog.goo.ne.jp/nybach-yokoに掲載されたものです。
私の《浅田真央&キムヨナさんへの感想》が、「東京新聞こちら特捜部に」掲載
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転載開始ー ■楽しいやら、悲しいやら色々なお話■
■私の≪浅田真央&キムヨナさんへの感想≫が、東京新聞「こちら特報部」に掲載■
10.2.27 中村洋子
★昨日お昼前、「バンクーバー五輪、女子フィギュアシングルの演技、
特に、浅田真央さん、キムヨナさんの ≪ 音楽と演技 ≫ について、
感想をお聞かせください」という、突然のお電話が、
東京新聞「こちら特報部」から、ございました。
★普段、ほとんど見ないテレビですが、せっかくのご依頼でしたので、
真剣に2時間あまり、リンクで舞われる美しい演技の数々を、
拝見いたしました。
★本日の東京新聞朝刊、「こちら特報部」の右ページに、
≪芸術性では「浅田真央勝利」≫という見出しで、
私がお話しました内容と、衣装面でのコメントを加えた記事が、
7段で大きく、掲載されていました。
★最初の文は、
「浅田選手の方が、芸術性が高かった。
金選手は大衆性で観衆の受けも良かったけど、
音楽家からすると『無難だが単調な金』より、
『挑戦してミスした浅田』のポイントが高い」。
★お電話では、浅田さんのすばらしいリズム感についても、話しました。
技を出さずに、氷面を滑走している時の彼女の肩には、
音楽の拍子とピッタリと一致した、小刻みな動きが見られました。
これが、観客を飽きさせず、彼女と一体となって、
「4分間」を楽しませる原動力であると、思います。
演技する浅田真央さんの呼吸と、観客の呼吸とが、一致するのです。
観客も、自分自身が演技しているように思ってくるのです。
これが、芸、あるは芸術、技でしょう。
これは、音楽や舞台芸術でも、同じです。
★キムヨナさんも、素晴らしいですが、
大技と大技との間の滑走で、一瞬、
リズムが消える時が、何回かありました。
次の技の準備のために、途切れてしまうのです。
★音楽、例えば、フーガの例を出しましすと、緊張感を伴うのは、
大技に相当します「主題の提示部」、
これは、第一、第二、第三提示部と、続きます。
その緊張を解きほぐすものとして、提示部と提示部をつなぐ、
エピソード(嬉遊部)が、あります。
★実は、ここの処理が、演奏上、一番難しいのです。
聴いている人を、リラックスさせなければいけないのですが、
演奏者自信が、リラックスしてはいけません。
★最新の注意をもって、聴く人の呼吸を、自分の呼吸と、
一致させるような、テンポとリズムを保ち、
次の大技(提示部)へと、向かっていくのです。
キムヨナさんは、この嬉遊部を
大きな高揚感へと、結び付けることがなく、
平坦な印象を、与えがちです。
★最高得点を獲得した彼女の、次なる課題は、
そこにあると、私は思います。
現状のままを繰り返しますと、すぐに飽きられることでしょう。
★クラシック音楽のコンクールでも、
全く同様なことがいえると、思います。
音楽の場合、コンクール入賞は、単に出発点でしかなく、
その後、どのような音楽を作りたいか、どう燃焼していくか、
本人がコンサートや録音、作品で、一生世に問うていくことが可能ですが、
スポーツの世界は、極めて限られた短い現役期間に、
自分を、表現しなくてはならないうえ、
音楽コンクールと同様、審査員が完全に公正であるとは、
言い切れない面も、あるようですので、
昨日は、美しいものを見た、という感動とともに、
溜め息も、ついたのです。
★クラシック音楽の例えば、ピアノの場合、
ここまで、崇高なレベルに達することができるのかと、
言えるほど偉大な演奏、
例えば、エドウィン・フィッシャー、ヴィルヘルム・ケンプなどの
大芸術家が、若干のミスタッチなど、ものともせず、
自分自身の世界を築き上げた、演奏録音に対し、
日本のCDの解説では、相変わらず、
“現代のピアニストと比べると、テクニックが劣っている”などと、
愚かな孫引きを、繰り返し、貼り付けています。
★戦前、戦後直後のころの録音は、現代のように、
修整に修整を重ねた、お化粧美人のような演奏ではなく、
ほとんど、1回勝負です。
そこで、若干のミスタッチがある、ということは、
“若干のミスタッチしかなかった”ということで、
いかに、恐ろしいほどの“テクニック”で
あったか、という証明でもあるのです。
★これは、浅田真央さんの演技を見て、スケートに全く無知な私が、
体が一瞬ぐらついたから、この人のテクニックは劣る、
と論評するのと全く同じであり、不遜である、と思います。
★上記のような批評や、CD解説を読んだ場合、
まず、それを書いた人の名前を覚え、
以降は、その名前で書かれている著作物は、信用しないのが、
無難で、無視すべきでしょう。
★余談ながら、冬期オリンピック・フィギュアとは、
不思議なご縁が、あります。
4年前のトリノ五輪で、荒川静香さんが感動的な金メダルを、
お取りになり、まだ熱気も冷めやらぬ翌々日の土曜日、
exhibitionで、彼女の優美な“イナバウアー”をもう一度、
披露されました。
日本中が、湧き上がっていました。
その同時刻、NHKFMラジオ「名曲リサイタル」で、私の作品が、
放送されていました。
ギターの斉藤明子さんにより、独奏曲「夏日星」が演奏されました。
★30分を越す大作で、斎藤さんへのインタビューもあり、
とても、いい番組でした。
放送後、親しい皆さんに、お電話で感想をお聞きしましたところ、
半数ほどの方が、「家には、いたのよ・・・」。
きっと、“イナバウアー”に酔いしれていらっしゃたのでしょうね。
次回の五輪フィギュアでは、また、新たな面白い出会いが
あるかもしれません。
楽しみであると同時に、どんな観客を魅了できる才能と
出会えるのか、待ち遠しく思います。
転載終了ー中村洋子先生、ありがとうございました。